イノベーション
1月16日から2月15日までの2カ月、
家に帰ったのはわずか6日間。
あとは出張に出っぱなしだった。
とは言っても、自宅のあるサンフランシスコでの
ツアー中でもホテルに泊まる。
家に帰る時間と体力を使いたくないのだ。
毎日食事をしてワインを飲むのだから、
夜遅くまでの接待を50日ぐらい続けた感じだ。
今回は初めて朝早く起きて、
ツアー参加の人達と約4キロを3回走った。
自分ひとりでも5回は走った。
食事のイノベーションが効いているのか、疲れない。
実は、炭水化物と糖分を一切食べないようにしているのだ。
毎年アメリカに来る女性に言われた。
「浅野さんは毎年若くなっていますね。」
「ヘルシー、ビューティー、セクシーが
私のモットーですから」と胸をはった。
自慢話はここまでとしよう。
さて、ソニーが大赤字を出した。
他社も含む、家電業界全体の赤字合計は
1兆数千億円にものぼるらしい。
原因はソニーのテレビ事業の大赤字。
自伝『ジョージ君、アメリカに行く』にも書いたが、
学生時代、京都のソニー販売店でアルバイトをして大稼ぎした。
あの当時のトリニトロンは大人気だった。
あれから40年の歳月が流れた。
ソニーにはカラーテレビ以上の
イノベーションはなかったのかと
あらためて思った。
40年間もテレビで飯が食えたのだ。
それは幸運としか言いようがない。
あるグループの幹事さんからいただいた、
『Chain Store Age』の10月15日号の中に
気になる文章があった。
有名な女性コンサルタントの文章だ。
「赤字店の根本的な対策は収益モデルを確立し、
それと同じ形で標準化を進める事である。
そうすれば店ごとの効率数値も、
良い方向に標準化される・・・(続く)」
もちろん、その文章や理論に間違いがあると
言っているのではない。
ただ、ソニーや家電メーカーの赤字とこの文章が
私に2つのことを思い出させた。
1つはアメリカで学生をしていた時に読んだ
経済雑誌『Business Week』の記事を思いだした。
当時、日本に進出して間もなかった
ケンタッキー・フライド・チキンの味が
店舗ごとにすべて違っているという内容の記事だった。
「記者はそのすべてを味わい、
シェフにインタビューをした。
シェフは、調理のマニュアル本に従いながらも、
各店のシェフや店長が、
少しでもマニュアル以上の味を出すために、
創意工夫しているのであった。
だから日本はすごい。
フランチャイズでもこのありさま、
日本人のイノベーションへの努力、
創意工夫を見習うべきだ」と書いてあったのだ。
さて、この40年、
日本人はなにをしてきたのか?
ひたすらマニュアル化、標準化してきたのか?
人々は角が取れ、個性が無くなった。
流通業では言えば、どうしてには
ホールフーズやウェグマンズ、
トレーダージョーが現れないのか?
12店舗の内装がすべて違うナゲットマーケットは?
地域に合った品揃えで、個店として売上増を優先しているHEBや
セントラルマーケットは?
日本はどの店も売り場の商品も、似たり寄ったりだ。
アメリカのチェーン店も、
もちろん基本は標準化はされているだろうが、
各々の店舗には個性があるところが多い。
陳列、POP、品揃えなど、ある意味で個店主義である。
あの標準化の代表、ウォルマートでさえ、
店長や部門長にかなりの権限がある。
かつて、ラスべガスのウォルマート・スーパーセンターで
インタビューした時、
店舗のアシスタント・マネジャーでも、
テストケースで自分が仕入れた商品を自店で売ってみて、
成功したら本部に紹介をすると言っていた。
とにかく現場主義である。
標準化はスポーツで言えば基礎体力のようなもので、
プロの世界となると、基礎体力と応用力が問題になる。
メーカーにイノベーションがなかったと言うより、
日本にはこの繁栄の40年間で、
大きなイノベーションがなかった。
流通も政治もエンターテイメントも
一歩前に出られないもどかしさがある。
何も決まらないのである。
NHKの大河ドラマや紅白歌合戦も
イノベーションは、あまり見られない。
韓流や中国映画の方がはるかに刺激的だ。
もう1つ思い出したのは、アップル社の成功だ。
アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの
言葉を紹介したい。
「あなたの心の内なる想いに耳を傾けてみなさい。
それに挑戦することが一番大切だ」
スーパーマーケット業界にも、
スティーブ・ジョブズと同じような人がいる。
カリスマ経営者として有名な
ホールフーズCEOのジョン・マッケイ氏だ。
従業員を「チームメンバー」と呼び、
クリエイティブで独創的な思想を基に
ビジネスを展開している。
マッケィの従業員への方針は
従業員一人一人に権限を与えるということである。
価格、発注、人員配置、店舗内昇進などまでも、
チームメンバー達が決定しているのだ。
これは彼の自由主義に基づく、
経営管理の独特な慣行といえるだろう。
「個人の責任」という考えのもと、
社員が目標を設定したら、必要な情報は与える。
会社の方針をおしつけずに、
それぞれのやり方、スタイルでその目標を達成する。
これらの言葉こそ標準化と対極にあると思えた。
日本の流通業界は50年前に標準化という
イノベーションに挑戦して、
皮肉にもイノベーションを失った。
今回、ドレーダージョーで聞いた話は、
有名なテキーラメーカーや、ヘネシーなどの
洋酒メーカーに対して、
1~2年の契約でPBを作ってもらう。
生産2週間前に全額前払いをして、
低価格を実現していると聞いて驚いた。
トレーダージョーでは、通常、
請求書をもらってから2週間以内に支払う。
なるほど、支払いの方法にもイノベーションがあったのだ。
WINCOのような従業員全員を株主にする経営もある。
イノベーションはいたるところで挑戦できる。
アメリカの小売業から学ぶものはないと言う人がいる。
それは自分の心でイノベーションを起こしたくなく、
進取の心が奪われたことを意味してはいないのか?
と自分のことを考え、心を新たにした。
浅野秀二
3月20日
2 件のコメント
浅野先生には、何度かお世話になりました。
その歯切れのよいご説明を思い出しました。
日本でもきっとイノベーションは起こると思います。起こします。
ただ、昔と違って、トータルでものを考えられる人間が少なくなったと思います。スーパーでいうと、販売・仕入れ・支払いの商流に経営までのすべてが、パーツに置き換わり、それぞれは効率的に完結しているように見えても、全体では「不思議」な光景に目を見張ります。ましてや、となりがすぐ見える日本では、必然的に同じことを同じようにしてしまうので、「同じような店舗・オペレーション」が乱立しています。そして、みんなそこに「安心」してしまうのです。そして、まったく新しいことが起きていても無視します。特に、それは都市部などですが、意外にローカルチェーンには、「驚き」を発見することが多くあります。
そんな時、まだまだ、日本だって広いなと思います。だから、アメリカも含め海外にはもっと「驚き」が存在するはずです。
とにかく、見て、触って、感動して、吸収して、そして「吐き出して」行く事だと思います。そして、それは「人間」しかできません。その行為が、データや効率化以上に大切だと思うのですが。
何物にも、右と左があるものですね。ただ、いずれにも「先に気付いた者」が勝ちだという事には変わりはありません!
お久しぶりです。コメントをいただきましてありがとうございます。
ぜひ、イノベーションを起こしてください。
人より、よりよくという発想ではなく、人と違うことをやろうと
いう風に切り替えないと、人件費に安い国にまけますね。
日本の成功体験は欧米諸国より人件費が安かったら
うまくいった面も大きいですね。
京都1000年の歴史に中で作ったオンリーワンの発想が
大切になります。
ところが、大企業はそういうわけにはいきません。
そうなると海外展開も視野にいれないといけませんね。
だれもが中国、中国と言っていますが、これも人と同じ
ことをやろうと言う日本人的発想です。80%は泣くでしょう。
こういう時こそアメリカに来るべきです。中国人は日本からの金を持って
160万人の富豪たちがアメリカの移民申請をしています。
この現実に日本のマスコミは気がつかない。情けない話です。アメリカ進出のお手伝いをしますよ。