輸入ミッション
3月も後半になって、やっと雨が降り出した。
冬はカリフォルニアの雨季であるにも関わらず、
1月から3月中旬までほとんど雨が降らなかった。
ツアー中、毎朝空を仰いで“晴れている、よかった”と
思いながらも、内心失望していた。
水不足でカリフォルニアの生活はどうなる?
農業用水は?生活用水は?
心配で仕方がなかった。
30年前の干ばつの時は芝が枯れ、
芝にペンキを塗る業者まで現れた。
今年はテキサスも雨が少なく、
68年ぶりに米の作付が全面禁止となった。
ところが、出張が終わった途端、
連日雨が降り始めた。
自然は偉大だ。
感謝の気持ちでいっぱいになった。
さて、この冬、最後のツアーは
アメリカから直接輸入を試みようとする、
とあるスーパーマーケットに勤める3名の若者だった。
「カリフォルニアの野菜を輸入してこい」という社長命令で
やって来たのは、20代~30代の若者3名。
「何でも挑戦してみろ」という社長の温かい配慮だと思う。
サンフランシスコ空港で彼らを迎えた。
話を聞くと、「野菜だけでなく、
ハネデューメロン、柑橘類、
ペットボトルの水、玉ねぎ、
更には肉まで輸入してこい。
それも、その場で買いつけてこい」
という凄い使命をおびてやって来たことを知った。
野菜買い付けのアレンジはしていた。
彼らが来る数日前に、メロンと肉の農家を
訪問したいと連絡はあったので、その準備もしていた。
が、その場で買い付けるというほど、
性急な話だとは知らなかった。
とにかく、全米一の野菜の生産地、サリナスに向かった。
3万ヘクタールの野菜の作付をしている
TANIMURA&ANTLEの本社とパッキングハウスを外から見た。
ちなみにこの農家はWalmartにも出荷している。
翌日はこの会社の輸出を専門にする子会社に行く予定だ。
時間があったので、松井農場を突然訪問した。
以前ブログにも書いたことがあるが、
ここは一代でアメリカ最大のラン栽培農家になった、
松井氏の農場である。
急な訪問にも関わらず、歓迎していただいた。
盛和塾世界大会の最優秀経営者であるベテランから
直に経営の要諦を聞く機会をもてた。
松井氏は77歳だが、体も頭も55歳だ。
100歳まで現役でやる予定だそうだ。
稲盛塾長の日航会長就任は、この松井さんが背中を押した。
翌日は野菜農家を3軒も訪問した。
いずれも18000~30000ヘクタールの大農家ばかり。
スーパーマーケットの規模、
いや小売業そのものの規模が大きくなったので、
野菜農家も大型化せざるを得ないのだ。
最低1500ヘクタールはないと、野菜農家も生きていけない。
その後、400キロほど車で走り、
カリフォルニア最大のハリス・ランチ(肥育場)が経営する
ハリス・ロッジに泊まった。
この間、JAC事務所のサチコさんが
3軒のメロン農家と生産者同業組合にコンタクトを取ったが、
すべて断られた。
もう玉がない、これ以上輸出先を増やしたくない。
それが理由であった。
悪い予感がする。
中国、韓国、台湾を始めとする新興国の買い付け増加により、
今までのようなやり方では通用しないと思った。
韓国のワイン買い付けに至っては、前年対比5倍だ。
日本の商社が農産物やコモディティを
買い叩いて買い付ける時代は終ったのだ。
逆に頭を下げて売っていただく。
金よりも、人間関係、信頼関係がないと物が買えないのだ。
私は若い3名にこのことを伝えたかった。
説明はしたが、デフレの日本では経験したことがなく、
なかなか解らないようだった。
ウォルマートはかってベンダーを叩いて、叩いて、
買い付ける、嫌われ者のディスカウント・ストアだった。
スーパーセンターというフォーマットを始めてから
青果を扱うようになったが、金がいくらあっても
農家から嫌われると良い青果は入って来なかった。
ここが加工品とは違う世界なのだ。
また、青果買い付けの面白さでもある。
その後、ウォルマートは変わった。
農家との人間関係を大切にするプロになった。
翌朝、メロン農家へのアポがまったく取れなかったので、
急遽、ハリス・ロッジのマネジャーに依頼し、
ハリス社の柑橘農場を訪問させてもらった。
何しろ我がJACは、この仕事を35年もしている。
彼らも我々のことをよく知っているからこそ、
実現できた視察だ。
車で12万頭もの牛の肥育場の写真を取りながら走った。
口蹄疫を防ぐため、肥育場の中に入ることは出来ないとは
知っていたが、写真もだめだと言われた。
マスコミが牛の肥育場は家畜の虐待だと言うのだそうだ。
ANIMAL COMPASSION
(ホールフーズマーケットが提唱する動物へのおもいやりの理念)食卓に上がった肉や魚を味わう時、
それらがどのように捕獲、飼育され殺されたかは、
ほとんど考えることはない。だがステーキやハンバーガーなどの牛肉、
トンカツなどの豚肉、さらに魚なども、
かつては命のあった生き物から得られたもの。もともと、これらの動物や魚は
人間の食材となるために商業的に飼育されている。
そのため、コストパフォーマンスは飼育業者にとって
欠かせない条件となり、効率よく飼育し市場に出すことが求められる。
その結果、動物や魚は我々が想像を絶するような
環境の中で飼育されている。このような飼育環境を改善し、
動物や魚をhumaneに(慈悲の心を持って)飼育し、
しかもhumaneに食肉処理する傾向が
食肉用の鶏、豚、牛、魚などにも広まっている。このような動きは以前からなかったわけではないが、
このムーブメントを一般にも浸透させ、
関心を高めようとしているのが、
ナチュラル・オーガニックフードの大手スーパー、
Whole Foods Market が発表した
The Animal Compassion Foundationの創設だ。Whole Foods Marketはこの機関を通じ、
食肉用動物の飼育環境を高め、
より動物をhumaneに扱おうという運動を始めている。数年先には、Animal Compassion(動物への思いやり)という規格を設け、
オーガニックフードと同様に、
承認機関を設けることも検討しているという。Whole Foods Marketでは生きたロブスターの販売を止めている。
理由はロブスターをタンクの中で生かしておくのは、
ロブスターのhumaneに反する、というのがその理由のようだ。
少しづつホールフーズの思想が、
社会的な影響を与えていることを知った。
糖尿病になるまで太とらせ、目が見えなくなったころが、
肉が一番おいしいという日本の和牛に肥育方法も
いずれ、必ず問題にされるだろう。
柑橘農場は800ヘクタールもあった。
2時間にもわたって、農場を案内いただき、
パッキングハウス(処理場)の訪問もできた。
輸出は彼らの役割だ。
親切に案内してもらった上、食事までご馳走になった。
本当に申し訳ない。
日本には輸出されていない、
ゴールデン・ナゲットは最高に美味しかった。
木が若い時は、皮が金塊のようにブツブツしている。
やがて数年するとスムーズな皮になるらしい。
ミネオラの収穫は終わったらしい。
この2つは日本でもすぐに売れると、
若いバイヤーは太鼓判を押した。
しかし、買い付けには遅すぎた。
玉はもうないのだ。
ネーブルオレンジを一箱いただいた。
これも非常に美味しかった。
種なしのレモンもあった。
大きなレモンもあるが、実の中が空洞になり、売れないサイズだ。
その後、いよいよハリス牧場の堵殺場(800~1200頭/日)に行き、
輸出担当者にあった。
「この牧場は年間25万頭の肥育をしているが、アメリアでは中堅の牧場。
安い肉を買い付けたかったら、中西部に行きなさい」と言われた。
輸出担当者がさらに言った。
「我々は品質で勝負をしている。
現在、日本向けは色々な規制で2000頭ぐらいしかないが、
TPP 契約後は規制が緩くなり、25万頭のうち90%をできることになる」
日本向けの輸出が増えるということは、
アメリカの消費者にとってはマイナスで、価格があがる。
やがて、アメリカ人は安く肉を食えなくなる。
金持ちのアジア人のための農業になってしまうかもしれない。
新興国の成長を喜んでばかりはいられない。
やっとアメリカのマスコミも政治家もそれに気が付き始めた。
今後、アメリカの貧しい消費者はどうなるのだろう。
3日間で1500キロ走った。
3名の日本の若者が何を感じたか、いつか聞いてみたい。
浅野秀二
3月30日