グローバル化のための人材教育
11月2日、ニューヨーク。
朝の4時に起きた。
今年最後の流通視察の団体をバスでラガーディア空港まで送り、
あとはガイドさんにお任せして、
私はそのままタクシーでJFケネディー空港まで飛ばした。
朝の早い便でサンフランシスコに帰るのだ。
機内では赤ワインを注文した。
フライト・アテンダントが怪訝そうな顔した。
朝の9時からワイン…?
しかしとにかく、眠らないといけない。
睡眠不足はひと月以上も続いている。
シスコに到着したが、携帯電話のバッテリーがない。
そういえば昨夜、夜が遅かったので充電が不十分だったのだ。
大手電鉄会社のグループがすでに着いているはずだ。
今日の英語ガイド、デービッド氏にも連絡できない、焦る。
それでもなんとか間に合った。
事前に日本からのSKYPEで面談をした9名が
元気そうに私を待っていた。
彼らはひと月にわたりサンフランシスコに滞在し、
アメリカ人の家にホームステイ。
午前中は英会話学校に行き、
午後からは私がプログラムする人材教育講座を受講するのである。
もちろん、慣れている流通研修とはまったく違う。
グローバル化する日本社会で、
電鉄という極めてドメスティックな産業界でも、
英語教育の重要性やグローバル化すべきかなどの議論はすでに終わったようだ。
すでに結論は出ている。
楽天やユニクロにように世界で活躍する人材教育が必要だ。
その最初の研修グループが私に任された。
基本的にはできるだけ英語でやる。
特に研修生は自己紹介からすべて英語ですることにした。
もちろん、私の英語は完璧でない。
だからむしろ講師としてふさわしいと思っている。
ヘタな出雲弁なまりの英語がいかに現地で通用しているか?
まず言葉よりもハートで会話をするのだ。
それを見てもらうのも最高の教育だという詭弁である。
もちろんネイティブのデービット氏をアシスタントとして採用した。
彼は日本で7年間、英語教師をした経験がある。
その昔、トヨタの社長の英語の先生をしたこともあるという超ベテランだ。
プログラムの最初はシリコンバレーの発展の現状と理由を知るため、
その中心街、サンノゼ市を訪れた。
サンノゼ市の経済開発部長、ジョー・ヘッジ氏のセミナー受け、
その後、スタンフォード大学の学生の案内でキャンパスを見学。
1週間後にはコンピュータ会社の社長、ソン・ミング氏の案内で、
グーグル、アップル、ジェネンテックなど訪問する予定もある。
私は「グローバル化社会に適応する」ということは
「極めて日本的でないと通用しない」ことを経験で知っている。
蘭の花の栽培では世界一、
盛和塾世界大会で最優秀を取った松井紀潔さんに会わせたい。
しかし松井さんとの面会はそう簡単なことではない。
面会依頼はほぼ100%、「NO」だ。
それでもやる。
それがグローバル化だと思っている。
1%でも可能性があればやるのだ。
いや、可能性がなくても可能に変えるのだ。
メールでの返事はやはり「NO」だった。
「そもそも電鉄社員と私の仕事は関係ない。
それ以前に私は忙しい」
普通なら私はここで引き下がるが、今回は違った。
「松井さんはすべての全財産を奨学資金として寄付し、
人材教育に貢献なさっていますね。
私も同じような気持ちがあります。
彼らを立派な21世紀の世界で通用する日本人にしたいと思います。
たしかに農業のことは関係ないです。
松井さんが生きてきた哲学。
ゼロからここまで事業を経営してきた哲学だけでも聞かせてください。」
「また、浅野さんに誤魔化されるのか?」
私は思わず叫んだ。
「誤魔化しではありません。私は本気です。」
「そこまで言うなら、まあ、煽てられ、誤魔化されてやるよ」
そして訪問は実現した。
机上の空論ではない。
たたき上げの実体験だ。
「社員教育をどのようにされていますか?」
「ここの労働者は100%小学校3年程度の教育を受けたメキシコ人です。
社員教育は通用しません。
体で感じること、生活が向上することでしか、彼らは納得しません。
理屈ではないのです。
だからやったらそれだけの成功報酬で報いるしかないです。
それも集団としての成功報酬、お互いが協力することで
それが実現することを見せるしかないです。」
よそでは聞けない話が他にもたくさんあった。
リッツ・カールトンの元マネジャーで、
会社経営者のショーン氏にはカスタマー・サービスの話を聞いた。
これも涙が出るほど面白かった。
すごい。
金融面は元日本興業銀行の本部長から
アメリカの銀行の頭取まで務めた秋山さんに話を聞いた。
この時は奥様のエマさんにも参加いただいた。
二人ともオックスフォード大学の出身で、
エマさんはスタンフォード大学院も出ている。
日本企業では働いたことがなく、
アメリカの商務省、IT関連や金融業界で大活躍された人だ。
「日本をダメにしたのは、即断できないサラリーマン社長」
というのが彼女の持論で、
サラリーマン社長をしていた秋山さんのセミナーの内容を、
平気で否定したり、追加、修正をしていた。
この掛け合いが最高に面白く、勉強になった。
まさにインテレクチャル(知的)な夫婦漫才のようだった。
やはりエリート人生を歩んできた方は、私とは違うと妙に納得した。
今回の研修の最大の目玉は
現在サンフランシスコで開発されている新幹線や、
既存の鉄道、バスターミナルの総合駅の開発を視察することだ。
これと並行して17棟の高層ビルが建築中である。
他にもいろいろなプログラムがあったが、
最後に自分で決めた課題で
パワーポイントを使った15分のプレゼンを全員がした。
もちろんすべて英語の発表。
帰国後、社長や幹部役員の前でも全員が英語でそれを発表するそうだ。
彼らはひと月で本当に成長した。
笑顔に自信と満足感がみなぎっていた。
日本食でお別れパーティーをした。
協力していただいた方には全員参加をお願いした。
最後にカラオケに行ったが、それにしてもみんなうまい。
東京で本当に仕事をしているのかな?
11月29日、今年の出張はすべて終わった。
あとはトルコとメキシコ旅行だけだ。
<By 浅野秀二>