盛和塾全国大会
最近は涙が出ることは少ない。
悲しくて泣くことは、男の子として長い間封印している。
何かに感動して涙を流す…映画、読書、スポーツ。
甲子園で母校や地元が優勝すれば、これは涙ものであったが、
これも今年はベスト8で終わった。
衆議院の選挙期間中も政治家の演説を聞いたが、
どれも涙が出るほどの感激はなかった。
誰も彼も相手の揚げ足を取る、レベルの低い戦法ばかり。
9月1日、2日に出席した盛和塾の全国大会で
8名の経営者が、経営体験発表をした。
経営というものは一般的には、決して面白く感動的なものではないが、
私は涙が頬を伝わってしょうがなかった。
ハンカチでは不十分で、タオルを出して涙を拭いた。
経営者の志や、熱意が伝わり、聞いている人々の胸を打った。
盛和塾とは、京セラ創業者の稲盛和夫氏を塾長と仰ぐ、経営勉強会である。
メンバーは、日本、中国、ブラジル、アメリカなど、
合計で5,332名の経営者が参加している。
今回の全国大会の出席者だけでも2,768名。
中国から84名、ブラジルから82名、アメリカから42名が参加した。
民主党の小沢一郎も挨拶にきた。
政権交代の支持への感謝の言葉であった。
しかし、交代後の現実の政治に我々は期待している。
醒めた目で民主党の小沢一郎を見ていた。
そこには熱狂はない。
頑張って欲しい。
盛和塾は「心を高め、経営を伸ばす」日本的経営かもしれない。
個人的には日本的経営も、アメリカ的経営もないと思っている。
成功する経営の本質は、全世界普遍的だというのが、私の見解である。
しかし、それは文化や歴史や宗教の違いもあり、
表面的には違う形、ようするに表現の違いと考えている。
ここで盛和塾の「経営の原点12ケ条」を記す。
一、 事業の目的、意義を明確にする
二、 具体的な目標を立てる
三、 強烈な願望を心に抱く
四、 誰にも負けない努力をする
五、 売り上げを最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
六、 値決めは経営
七、 経営は強い意志で決まる
八、 燃える闘魂
九、 勇気をもって事にあたる
十、 常に創造的な仕事をする
十一、思いやりの心で誠実に
十二、常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心で
7名の発表者は、いずれも素晴らしい経営者であった。
8番目、最後の発表者は、昨年発足した
我々シリコンバレーの代表、松井紀潔氏74歳である。
カリフォルニアでラン栽培、世界一のラン栽培農業経営者である。
彼を知る仲間は、日本広し、いくら優秀な経営者が集まる盛和塾メンバーでも
彼に勝る経営者はいないと思って
日本まで応援に来た。
我々の期待を一身に受けての参加であった。
国際大会で金メダル間違いなしと期待されそれを実現する。
それは抜群の力がないと実現不可能である。
実力拮抗では番狂わせがある。
ところが、松井さんは期待どおり、最優秀経営者賞を受賞した。
彼の勝利はまさに圧巻、燃える闘魂、根性、計画性、
その緻密さ、創造性、思いやり、前向き。
家庭でも4名の子供全員はハーバード大学卒業という快挙を成し遂げている。
泣かせるようなスピーチではない、笑顔でのスピーチである。
でも多くの人が感動で涙を流していた。
25歳で、嫁と子供を置き、わずか一万円持って、
受け入れ農家が飛行機代金を支払う約束で実習生として来た。
その後、菊の栽培で全米一。バラに切り替え、全米一。
63歳でランの栽培で挑戦、4年後には世界一のラン栽培農家になった。
もちろん、運ではなく、緻密な計画性と、
新しい市場をつくるという創造性への挑戦であった。
一時は隆盛を誇ったカリフォルニアにおける日系花栽培農家だが、
今は誰も残ってはいない。
松井さんの成功がいかに例外的なことか。
しかし、よくある海外の成功物語と違う、
私や多くの人の涙を誘ったストーリーとは?
若い頃からロータリー・メンバーとして、
自分の時間の4分の一は社会貢献に尽くした。
2005年には松井財団を発足、会社の利益の8%を
毎年、地域の貧しい学生(主にメキシコ系)の奨学金を提供。
一人あたり、年間1万ドル、4年間の提供している。
すでに60名の学生が恩恵を受け大学を卒業、
最終的には、すべて彼の財産100億円以上がこの資金として使われる。
汗水たらして、誰にも負けない努力をしてきた。
その成功報酬のすべてを社会に寄付するというのである。
家業の繁栄や、会社の発展、我が子のために、勤勉に働く人はたくさんいる。
名誉も財も成した人でも、すべてを寄付するのは難しい。
この志に我々は涙をした。
この大きな利他の心が、優秀な他の経営者との大きな違いのように思えた。
もう一つの大きな違いは
74歳と思えない言葉のエネルギー、青年のような夢と志。
これが爽やかであった。稲盛塾長も絶賛していた。
この2つ要因こそ、単なる成功の自慢話で終わらず、
最優秀経営者として選ばれた理由であると思う。
ところで、先日ロシア紀行でロシアの(資源の)豊かさに驚いたが、
8月に台湾に行き、台湾の夜市(渋谷や、竹下通りのような若者が集まる商店街)の繁栄ぶりをみて、本当の豊かさの実現は資源ではなく、
人間が造るものとあらためて認識をした。
盛和塾の心を高める、人材養成、青少年教育こそ、
21世紀の日本を支える力となる。
日本には資源はない、人口も減る。
しかし、人材を活性化すれば、再び日は登る。
浅野秀二
9月06日