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田子重news|
1号店閉店撤回の「請願書」に曽根礼助社長が「回答」
㈱田子重は静岡県に16店舗を展開する。
2024年3月期年商は335億円。
日本を代表するローカルチェーンだと思う。
いわゆる地域密着型スーパーマーケットである。
曽根誠司会長と曽根礼助社長は、
仲のいい兄弟で、
会社はファミリービジネスである。
そして地域の人たちから敬愛されている。
その田子重の創業店が1973年開業の小川店である。
故曽根令三会長がつくった、思い出の店舗だ。
焼津市小川新町1丁目にある。
会社はその第1号店の閉店を決めた。
小川店の周辺は人口減少が著しい。
経営努力を重ねたが、収益の回復は果たせない。
スーパーマーケットという事業は
商圏内の人口が全ての業績に影響を与える。
だからいい立地とは、
多くの人々が来店しやすい場所のことだ。
そこで田子重の現経営陣は閉店を決めた。
小川店の約500m西には、
田子重登呂田店も出店している。
2月17日のホームページで、
顧客にお知らせした。
「田子重小川店の営業を終了させて頂きます」
すると閉店撤回を求める顧客から、
請願書が寄せられた。
1000名を超える顧客が賛同していた。
感動的だ。
しかし多分、赤字は消えない。
そこで田子重は曽根礼助社長が、
同社ホームページ上にお詫びのコメントを公開した。
タイトルは、
「小川店閉店を撤回する請願へのご回答」
「4月16日(水)をもって、
やむなく小川店を閉店させて頂くことになりました。」
「閉店することを発表して以降、
近隣地域にお住いの皆様をはじめ
多くのお客様から営業の継続を求めるご要望や
励ましのお言葉を日々頂戴し、
有難く受け止めさせて頂きました。」
「また、この度は1,000名を超える方々が
ご署名された閉店撤回の請願書を賜り、
全ての方のお名前を
謹んで拝覧させていただきました」
その請願書は以下。
「弊社では、小川店が人口減少地域に
立地しているという困難な問題に対し、
これまで鋭意様々な経営努力を重ねて参りましたが、
長年の業績低迷からの回復はいかんともしがたく、
やむなく閉店させて頂くことになった次第です。」
「小川新町で生まれ育った私個人としても、
また組織としても、
歴史と思い出の詰まった
弊社の第1号店である小川店を閉店するのは、
誠に辛く、無念・残念の決断ではありましたが、
地域の皆様に支えられて
事業活動を行っているという事実を
改めて再認識致しました」
「皆様の長きにわたるご愛顧、ご支援に
心より感謝申し上げますとともに、
ご不便、ご迷惑をおかけしますことを
深くお詫び申し上げます。
誠に勝手ではありますが、
お客様のご期待に沿う営業を
今後とも心掛けて参りますので、
何卒、ご理解賜りますようお願い申し上げます。」
「本来であれば、
請願書にご署名くださった全ての方に
お返事、お礼すべきところですが、
それも叶いませんことから
ホームページでの記載をもって、
これに代えさせて頂きます」
ことの顛末は以上だ。
ハーバードビジネススクール流に問おう。
皆さんはどうしたらいいと思うか。
「店は客のためにある」と考えれば、
営業は続けなければならない 。
けれど「店員とともに栄える」と考えれば、
閉店はやむなし。
倉本長治の商売十訓、
「欠損は社会のためにも不善と悟れ」ならば撤退だ。
「愛と真実で適性利潤を確保せよ」も、
結局は撤退を示しているだろう。
だから妥当な意思決定である。
しかし普通に考えればここで、
この店の商圏人口と店舗サイズで利益を出せる、
新しい方法はないかという発想になる。
それが2番目のフォーマットづくりだ。
あるいは無店舗販売の方法である。
マルチフォーマット戦略という。
適正規模は一つではない。
もちろんそれを考え、実行するには、
時間と金がかかる。
ここで判断は分かれる。
従来の政策を貫徹するか、
あるいは新しい政策を模索するか。
そして田子重は決めた。
現在の不採算物件は撤収して、
採算の取れる物件を開発する。
さらに新しいエリアでの店舗展開を探求する。
幸いに田子重は静岡県の、
焼津以外のエリアの店が好調だ。
将来は静岡以外の県にも出店は可能だろう。
そのスピードを視野に入れれば、
今回の判断は正しい。
それでも静岡県のローカルチェーンを
堅持しようとすれば、
小型フォーマットや無店舗販売の開発は、
今後の可能性として残ると思う。
意思決定は難しい。
最後の決断が閉店だった。
それは正しい。
それにしても、
田子重小川店の顧客からの信頼は凄かった。
一番大切なのは、
この顧客のロイヤルティである。
その意味で田子重は、
日本を代表する地域密着型の、
スーパーマーケットである。
〈結城義晴〉