田子重小川店の「お見送り」の「欠損は社会のためにも不善と悟れ」

新横浜から新幹線ひかり。
いいものを見た。
静岡で新幹線を降りて、
東海道本線に乗り換える。
そして焼津へ。
静岡県中部の市。
市内には焼津漁港と大井川港。
二つの港湾をもつ水産文化都市。
人口は13万2920人。
田子重はその焼津から発祥した、
スーパーマーケットチェーン。
市内に6店、静岡市に6店。
西は掬川、東は沼津まで15店を展開する。
今日4月16日はその小川店閉店の日だ。
田子重の曽根礼助社長は言う。
「100歳のお祖父さんの盛大なお見送り」
そのお見送りを見届けに行った。
グロサリーや日用雑貨は、
これまで閉店に備えて、
在庫をコントロールしてきた。
朝からグロサリーを半額にして、
私が訪れた2時半ごろには、
もう売り切れ状態だ。
バックヤードも見せてもらった。
52年前の創業の店で、
関西スーパーの指導を受けて、
本格的なスーパーマーケットの装備がある。
まだまだ十分使えるバックヤードだ。
私が関西スーパー広田店に実習に入ったのが、
1978年の3月である。
そのころの後方施設とそっくりだ。
しかしこの小川店の周辺の人口減は著しい。
海に近いこの地区は家は立っているが、
若い人たちを中心に山側に移住している。
だから街並みに比較して、
コンビニエンスストアでさえ出店しない。
小川店も精一杯の努力を重ねたが、
将来性はない。
そこで田子重の経営陣は閉店を決断して、
2月に告知した。
そうしたら住民から請願書が寄せられた。
1000名を超える署名があった。
それでもそれらに理解をいただいて、
閉店に至る。
屋上で曽根会長から説明してもらう。
遠くに富士の姿が見える。
3時、4時、5時になっても、
お客さんが途絶えない。
生鮮や惣菜、日配品など、
2割引き、3割引きと下げていって、
最後に半額が表示された。
お客さんは増えるばかり。
レジにも行列ができた。
レジは2人体制で対応した。
棚からはすっかり商品が消えた。
これこそ正しい「お見送り」である。
買物が終わったお客も閉店まで帰らない。
親子三代で買物に来た顧客、
散歩がてら毎日やってきた顧客。
地域に馴染んだ店であった。
6時15分頃に最後の顧客がレジを終了すると、
入り口付近に幹部や従業員が集まってきた。
800メートルほどのところに、
田子重登呂田店がある。
3号店でここに本部がある。
小川店の顧客はこれから、
登呂田店に買物に来てくれるだろう。
閉店して多くの顧客が去ったあとも、
名残惜しそうに店の前に佇む人の姿があった。
今日の模様はテレビ静岡で放映された。
元は材木店!?港町に根付いた老舗スーパーの1号店が52年の歴史に幕 買い物客が別れ惜しむ 静岡(テレビ静岡NEWS) – Yahoo!ニュース
私は田子重の判断は正しいと思う。
「店は客のためにある」
倉本長治は諭した。
同じように長治は教えた。
「欠損は社会のためにも不善と悟れ」
人口減の激しい田子重小川店は、
正しく閉店したのである。
ありがとう。
〈結城義晴〉