結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2025年03月19日(水曜日)

田子重創業店の「閉店撤回請願書」に思う

商人舎流通SuperNews。

田子重news|
1号店閉店撤回の「請願書」に曽根礼助社長が「回答」

㈱田子重は静岡県に16店舗を展開する。
2024年3月期年商は335億円。

日本を代表するローカルチェーンだと思う。
いわゆる地域密着型スーパーマーケットである。
スクリーンショット 2025-03-20 163916

静岡県焼津市を中心にして、
静岡県全域に店舗を展開する。
スクリーンショット 2025-03-20 162022

曽根誠司会長と曽根礼助社長は、
仲のいい兄弟で、
会社はファミリービジネスである。

そして地域の人たちから敬愛されている。

その田子重の創業店が1973年開業の小川店である。

故曽根令三会長がつくった、思い出の店舗だ。
焼津市小川新町1丁目にある。pic_store01-main@2x

会社はその第1号店の閉店を決めた。

小川店の周辺は人口減少が著しい。

経営努力を重ねたが、収益の回復は果たせない。
スーパーマーケットという事業は
商圏内の人口が全ての業績に影響を与える。

だからいい立地とは、
多くの人々が来店しやすい場所のことだ。

そこで田子重の現経営陣は閉店を決めた。
小川店の約500m西には、
田子重登呂田店も出店している。

2月17日のホームページで、
顧客にお知らせした。
「田子重小川店の営業を終了させて頂きます」

すると閉店撤回を求める顧客から、
請願書が寄せられた。

1000名を超える顧客が賛同していた。

感動的だ。

しかし多分、赤字は消えない。

そこで田子重は曽根礼助社長が、
同社ホームページ上にお詫びのコメントを公開した。

タイトルは、
「小川店閉店を撤回する請願へのご回答」

「4月16日(水)をもって、
やむなく小川店を閉店させて頂くことになりました。」

「閉店することを発表して以降、
近隣地域にお住いの皆様をはじめ
多くのお客様から営業の継続を求めるご要望や
励ましのお言葉を日々頂戴し、
有難く受け止めさせて頂きました。」

「また、この度は1,000名を超える方々が
ご署名された閉店撤回の請願書を賜り、
全ての方のお名前を
謹んで拝覧させていただきました」

その請願書は以下。

tagoju_letter-1
曽根社長の回答文は続く。

「弊社では、小川店が人口減少地域に
立地しているという困難な問題に対し、
これまで鋭意様々な経営努力を重ねて参りましたが、
長年の業績低迷からの回復はいかんともしがたく、
やむなく閉店させて頂くことになった次第です。」

「小川新町で生まれ育った私個人としても、
また組織としても、
歴史と思い出の詰まった
弊社の第1号店である小川店を閉店するのは、
誠に辛く、無念・残念の決断ではありましたが、
地域の皆様に支えられて
事業活動を行っているという事実を
改めて再認識致しました」

「皆様の長きにわたるご愛顧、ご支援に
心より感謝申し上げますとともに、
ご不便、ご迷惑をおかけしますことを
深くお詫び申し上げます。
誠に勝手ではありますが、
お客様のご期待に沿う営業を
今後とも心掛けて参りますので、
何卒、ご理解賜りますようお願い申し上げます。」

「本来であれば、
請願書にご署名くださった全ての方に
お返事、お礼すべきところですが、
それも叶いませんことから
ホームページでの記載をもって、
これに代えさせて頂きます」

ことの顛末は以上だ。

ハーバードビジネススクール流に問おう。
皆さんはどうしたらいいと思うか。

「店は客のためにある」と考えれば、
営業は続けなければならない 。

けれど「店員とともに栄える」と考えれば、
閉店はやむなし。

倉本長治の商売十訓、
「欠損は社会のためにも不善と悟れ」ならば撤退だ。

「愛と真実で適性利潤を確保せよ」も、
結局は撤退を示しているだろう。

だから妥当な意思決定である。

しかし普通に考えればここで、
この店の商圏人口と店舗サイズで利益を出せる、
新しい方法はないかという発想になる。

それが2番目のフォーマットづくりだ。

あるいは無店舗販売の方法である。

マルチフォーマット戦略という。

適正規模は一つではない。

もちろんそれを考え、実行するには、
時間と金がかかる。

ここで判断は分かれる。

従来の政策を貫徹するか、
あるいは新しい政策を模索するか。

そして田子重は決めた。

現在の不採算物件は撤収して、
採算の取れる物件を開発する。
さらに新しいエリアでの店舗展開を探求する。
幸いに田子重は静岡県の、
焼津以外のエリアの店が好調だ。

将来は静岡以外の県にも出店は可能だろう。

そのスピードを視野に入れれば、
今回の判断は正しい。

それでも静岡県のローカルチェーンを
堅持しようとすれば、
小型フォーマットや無店舗販売の開発は、
今後の可能性として残ると思う。

意思決定は難しい。
最後の決断が閉店だった。

それは正しい。

それにしても、
田子重小川店の顧客からの信頼は凄かった。

一番大切なのは、
この顧客のロイヤルティである。

その意味で田子重は、
日本を代表する地域密着型の、
スーパーマーケットである。

〈結城義晴〉


14 件のコメント

  • 田子重さんは、昔の「食品商業」でもとりあげられていたのを覚えています。まさにローカルチェーンのモデルとして、紹介されていました。

    • 田子重は関西スーパーの北野祐次さんに学んで、
      基本の店づくりを完成させました。

      その運営の仕方と経営は荒井伸也さんの指導を受けました。

      だからホームぺージには、
      「スーパーマーケットとは何か」だとか、
      「作と演のシステム」などが生真面目に書かれています。

      いい会社です。

  • 不採算なら撤退はやむを得ませんね。
    そこまで様々なやり取りが色々な人とあった事は想像に難しくありません。
    企業は利益を追求していく以上は辛い決断もしなければならず、出来なければ衰退していきます。地元の方と企業の関係性を示した分かりやすい事例だと思います。

    • タナベマサトさん、ありがとうございます。

      私も正しい判断だったと思います。

  • 田子重沼津ニシジマ店様で今日は棚卸しアルバイトをさせて頂きました。
    ありがとうございました。
    田子重は店の作り方も消費者目線で雰囲気も良く、
    アルバイトも開かれてます。
    いつも市民市場を作ってくれてます。
    価格努力もみられる為に安心できます。
    どうか今後もどの店舗も頑張って欲しいと思います。
    これからも宜しくお願い致します。

    • 高原基広さま、ご投稿ありがとうございます。

      田子重を大切にしてください。
      いい会社ですね。

  • 30年以上前の本店の繁盛振りは、素晴らしいものがありましたが、高齢化による人口減少での閉店は、企業の発展の妨げになりますし、難しいですね、
    嘆願書は、高齢者の人達が大部分かと思います。
    この地域だけでも出前、つまり御用聞きのシステムをされたら如何でしょうか。
    そう言う私は、後期高齢者です。

    • 長澤さん、ありがとうございます。

      とくし丸なども考えただろうと思います。
      それも一案ですね。

  • このブログを読んでいると
    不思議と、
    セブンの鈴木会長を思い出します。

    鈴木会長が、
    ヨーカ堂全盛期
    新規にヨーカ堂を出店するエリアに説明しに行くと
    地元商店街からモーレツな反対をうけ
    つらかったと。
    そして
    小さな店でも
    共存共栄できる
    道はあるのではないか?との想いから、
    当時、
    大型GMSが
    小売りの完成形だと言われていた時代に
    社内の反対を押し切って
    小さな小さなコンビニを作り上げた話を思い出しました。

    田子重さんの
    撤退する商圏にお住まいの方で、
    アマゾンで買い物をしている人は
    いるのではないでしょうか。

    打つ手は
    無限。
    だと思います。

    IYも
    ようやく。。。
    がんばってほしいですね。

    • 小売り♪さん、ありがとうございます。

      経営者は誰も、自分に突き付けられた設問を、
      必死で考えて結論を出します。

      鈴木さんの結論、曽根さんたちの結論。

      考え方は無限です。

  • 静岡県のホームページだと、【コスモス薬局・小川漁港店】の新店舗許可の申請が、今年の2月10日に申請されています【申請番号10610】が、近隣に建設してるような素振りが全く無いのでこの小川店の居抜き開店なのではないでしょうか?

    • スキキライスクナク・ペローリさま、情報ありがとうございます。

      閉店した後にコスモスが入ってくるのは、
      Supermarketとしては困ったことです。

  • 私が結婚前から主人とお買い物し始めて結婚してからもずっと利用していました。子供が出来てからもおばあちゃんやおじいちゃんやお父さんと買い物するのが楽しみでした。今でもおばあちゃんは歩いて買い物して孫に料理して食べさせてくれます。車もないし今は自転車も乗らないので無くなってしまったら困ってしまいます。思い出の田子重が無くなったら寂しいです。これからもお店をして欲しいです。

    • 佐藤佐智代さま、ありがとうございます。

      田子重のみんなも佐藤さんご一家に支えられて、
      幸せだと思います。
      それにお応えすべく、全力で仕事をします。

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